☆綺月side☆


 あ~。行き詰まった。

 いい感じで、曲が頭に浮かんできたのに。
 サビの部分、納得がいかねぇ。


 脳の空気を入れ替えるように、
 伸びて。

 体をねじって。右に左に。



 あっ!!

 俺……
 サイテーじゃん……



 俺の瞳に映ったのは、
 ベッドに座り
 淋しそうに顔をうずめている心美。


 やってしまったと頭を抱えるも、
 残念ながら、時間は巻き戻せない。



 曲が頭に降ってきた瞬間。
 メロディを、絶対に忘れたくなくて。

 キスした女のことなんて忘れ、
 がむしゃらに鍵盤を弾いてしまった俺。

 慌てて、ヘッドフォンを
 キーボードの上に置く。


 コトン。


 俺の存在を知らせる音が、
 心美の耳にも届いてしまったらしい。


 ビクッと顔を上げ。

 置き去りにされたワンコみたいに
 揺れる瞳と、目が合ってしまった。



 心美の弱ってる感じ……

 マジで……可愛い……



 はっ!!

 心の声が漏れないように、
 手で口を覆う。


 でも、隠しきれねぇ。

 夕日でも当たってんじゃないかって程、 
 真っ赤に染まっているであろう
 熱を帯びた俺の頬を。