9話「初仕事」



 辺りが暗くなった頃。
 文月は、城門に向かって歩いていた。遠くに門が見えてくる頃には、すでに桜並木が見えるようになっている。桜門が出迎えてくれたのがわかり、文月は自然と歩調が早くなった。


 「桜門さーん。文月です!来ましたー」


 ここはこの世の世界ではない。
 どんなに叫んでも現世には声が届かないはずだ。文月は、そう思い、桜門を大声で呼んだ。


 「あぁ、来たか。先ほど、みき子の手紙が届いた」


 桜の木の上にいたようで、ふわりとそこから飛び降りる。落ちるというよりは、飛んでいる。こんな事も出来るんだなーと、あまり驚かなくなっている自分に文月は苦笑してしまう。


 「よかったです。ただ燃やすだけとは聞いていましたけど不安だったので」


 目の前に降りてきた桜門を見つめ、頭を下げて挨拶をした後、文月はそう返事をする。
 初めての事だったので、無事に桜門に届くか不安だったので、一安心をした。

 桜門はニコニコしながら、文月が持っている袋を見つめていた。どうやらお土産のケーキが気になって仕方がないようで、視線が文月の手元にいっている。


 「お土産買ってきました。地元で有名なショートケーキなんですけど……」
 「食べる!」
 「ぜ、ぜひ召し上がって下さい」


 目をキラキラさせて、食い気味にそういう桜門の表情は少年のように幼かった。
 普段はかっこいい妖精のような男性なだけにギャップを感じてしまう。