8話「静かな昼下がり」



 黒い煙が青空に上がっていく。
 焚き火など見かける事も行う事もなくなってきた。料理以外で火というものをほとんど見なくなっていた文月は、不思議な暖かさがある火や煙を見つめながら、呆然と過ごしていた。


 桜門と出会った次の日。
 文月は祖母の手紙を、実家の庭で燃やしていた。桜門に言われた通り、彼に手紙を渡すためだ。

 「昨日のあれは夢じゃなかったんだよね」

 消えそうな火を枝でツンツンッと押しながら、文月はそんな呟きをこぼした。




 桜門との出会いは、突然だった。
 祖母の手紙を見つけて、すぐに飛び出し、彼は文月を受け入れ、姿を現してくれた。そして、本当の事を教えてくれた。
 おばあちゃんが身代わりになった事は、今でも考えると胸が痛む。それが正解なのか。考えてもわからないままだ。
 けれど、2人は考えた上で文月の幸せを願ってくれた。それだけは本当だとわかった。それが何よりも文月が嬉しい事だった。


 そんな不思議な存在である桜門は、自分を死人だと言った。きっとそれは本当なのだろう。
 あの城の前には桜の木などなかったし、第一文月が見落としていたとしても、季節は冬。桜があんなにも見事に咲くことなどないはずだ。
 そして、あの不思議な銀色の髪や見たこともないような美しい容姿、そして体温。
 それら全てが現実世界とかけ離れていたのだ。それなのに、不思議と怖さを感じない。