7話「お揃いの青」




 「おまえは、泣き虫なんだな。文月」
 「な……泣いてないですよ!今は……」


 確かにうるうるしてしまっていたが、それでも涙は流れていない。そう強がってしまった文月を桜門は「そうか」と言っただけで、その後はからかう事もなく、ニコニコとしているだけだった。
 恥ずかしさから、文月は抱きしめていてくれた彼から離れ、スクッと立ち上がった。
 そして、彼を見つめて「帰らなきゃ」と小さな声でそう呟いた。
 それは桜門に言うというよりかは、自分に言い聞かせるような口調になってしまった。


 フッと自分の手を見つめる。
 ずっと無意識で強く持っていたもの。和紙でできた祖母が桜門に宛てた手紙だ。文月を桜門の元まで案内してくれた大切な手紙。けれど、それは桜門に向けて書いたものだ。
 文月は、それを桜門に手渡そうとした。
 桜門はその手紙をジッと見た後に、右手の手のひらを差し出した。


 「ここに置いてみろ」
 「え……はい………」


 その言い方に疑問を持ちながらも、文月はその手の上に和紙の手紙を置いた。
 が、文月が手を離した瞬間に、それは桜門の手をすり抜けてヒラヒラと落ちた。


 「え…………」


 文月は驚きすぎて、体が固まってしまった。
 手紙が体をすり抜けたのだ。
 けれど、すぐに納得がいく。
 桜門は死人なのだ。