6話「予感と笑顔」





   ★★★



 「死人の前で寝てしまうとは……何とも無防備な女だ」


 何度も泣き、疲れてしまったのか文月は桜門の腕の中でウトウトし始めた。
 そんな彼女の様子を見て、苦笑しつつも嬉しくなってしまう。気を許してくれているか、と思えるからだ。


 「みき子はあんな事を言っていたが。そんな事は言われなくてもわかっているんだがな……」


 桜門はみき子から送られてきた手紙の内容を思い出し、そんな言葉を洩らす。

 みき子は文月の見舞い後、城門の前によく顔を出していた。そこで、身代わりの依頼を決めたのだ。その時、桜門は本当にいいのか?と何度か聞いてしまった。普段ならば、願われるとすぐ叶えてしまう事が多いのだ。事故などで変わりにそれを貰いたいと願う人間が多いからだ。
 それに、文月からみき子を奪ってしまっていいのか?とも思った。話を聞けば、文月がみき子だけを慕っているのは明白だ。そんな人を変わりに殺しては、彼女は嘆くだろう。そう伝えても「死んでしまえば、嘆いてもらう事も出来ませんよ」と言われてしまうのだ。

 みき子の意思が固く、そして彼女の気持ちが強く伝わり、桜門は身代わりを決めたのだ。



 目の周りが赤くなった文月。
 そこに触れようとして、桜門はハッとして寸前で止めた。自分の体はとても冷たい。今、彼女から感じられるようなぬくもりはすでに遠い昔になくなってしまっているのだ。
 けれど、彼女と居るとそれを忘れてさせてしまう。文月はそういう存在なのだ。
 今、文月に触れてしまえばきっと起こしてしまう。桜門は、その手を自分の方へ戻し、そして襟元へと入れた。そこから、1枚の手紙を取り出す。
 それは、生前のみき子が桜門に最後に書いた手紙だった。正確には最後ではないようだったが、桜門の元に届いたのは、それが最後だったのだ。

 彼女を起こさないようにゆっくりと和紙の手紙を開く。