プロローグ




 12月始めの満月の夜。

 月明かりに照らされた桜並木。
 それがこんなにも幻想的だとは知らなかった。この古城の門という場所がそうさせているのか、それとも満月が神秘的に見せているのか、冬の冷たい空気のせいか、理由はわからない。
 けれど、文月(ふみつき)は見惚れて、動けなくなるほどだった。


 「新しい、依頼主か?」


 その声はとても澄んでいて、耳に入ると体がが温かくなる。


 白い肌に銀髪、白い着物を見事に着こなしているの桜門という男。
 耳や首、腕などにつけている金銀や色とりどり宝石は、着物には不向きなはずだが妙に合っており、とても綺麗で美しく感じられた。

 けれど、文月はそれよりも彼の真っ黒な瞳から目が離せなかった。



 何故か、切なく悲しい気持ちになってしまったのだ。



 それが何故なのか桜門に会ったばかりの文月は、まだ知る由もなかった。