|プロローグ

「あれ、お母さん? お母さぁん!」


幼稚園に通っていたくらい……確か、五歳くらいの頃。
私は大型テーマパーク『パトリツィア・ランド』で母親とはぐれて迷子になった。


キョロキョロとあたりを見回したけれど、お母さんは見つからなくて。

見えるのは、おどけたポーズをしているピエロや妖精さん、魔女みたいな、普段は目にしないものばかりで。

心細くて、心細くて、泣きそうになった。



だけれども……

「うわぁーん、うわぁーん!」

私より先に泣いている子の、とっても大きな泣き声が、メルヘンな動物の絵が描かれている、お洒落なベンチの辺りから聞こえてきた。

(えっ、あの子も……?)

その子は男の子のくせに、手を両目の下に持ってきて、顔を涙でぐしゃぐしゃにして。
まるで、女の子みたいに泣いていた。

「お母さぁん、お母さぁん。どこなの〜?」

そんなすごい泣き方を見ていたら、私は可笑しくなって。

「あはは、あははは!」

自分も同じ迷子さんだということを忘れて、大笑いしてしまった。


そして……

「ねぇ、君。君も迷子なんだね! 一緒にお母さん、探しに行こう!」

涙で濡れたその子の手を引いて、パトリツィア・ランドの中を駆け出したんだ。