SIDE 刹那



俺は気味が悪かった。

なぜか上機嫌で実家に帰ってきて、黒猫のノワールと笑顔で遊んでいる絆が。

何だよあのだらしねぇ顔。若頭『白狼』の面影もない。

死角の壁の隙間からそっとのぞいていたら、洗濯物を持ってせかせかと現われた母さんが絆に声をかけた。



「何かいいことあったの、絆」

「いいや、なんでもない」



なんでもないと言ったものの、口角は上がっていて余計不気味だ。気持ち悪っ。



「母さん、親父って昔からグイグイ来る感じだった?」

「志勇?うん、すごかったよアプローチが。今もだけどね」

「ふぅん」



特に続かない会話に、母さんは首をかしげて数歩歩いたが、すぐ戻ってきた。



「……もしかして、気になる子でもできた?」

「秘密」



うげぇ、あの絆に本気の女?

俺は驚きのあまり、その甘ったるい表情の絆を二度見し、ついに目の前に飛び出した。



「だから女遊びのやめたの?どんな娘?紹介してよ俺に」

「どっから聞いてたんだよこの性悪」

「何言ってんだよ、俺が性格悪いのは今に始まった話じゃねえし」

「チッ」



包み隠さず舌打ちをされたものだから、意地悪く笑って見せた。

昔から兄弟なのに馬が合わず、目の上のたんこぶのような扱いをされているのは分かっている。



「へえ、そうなんだ、ふーん。
父さんには言わないようにしてやるよ。
恋愛に浮かれてるなんて聞いたら怒るだろうから」


仕事、行き詰まってんだろ?と言いたげに首を傾げた。

その仕草に余計に腹を立てた絆は、思いっきりガンを飛ばしてきた。