楽しい時間はあっという間で月日は飛ぶように過ぎ、私はそれ以降自室にこもって勉強するようになった。

そしてついに迎えた大学受験の日。

その日は木枯らしが吹きとても寒かった。

朝早くからひとりで受験会場に向かい、黙々と試験をこなした。




結果、手応えは十分。しっかり勉強をしたとはいえ、試験が終わってようやく安心できた。

夕方まで続いた試験だったけど、足取り軽く会場を出た。






「すみません、道を教えて欲しいんですけどいいですか?」

「はい、私ですか?」



辺りが夕闇に飲まれた帰り道、ひとりの若い男に声をかけられた。

手に地図を広げ、イントネーションの独特さからアジア系の外国人観光客だろうと思った。

男は片手で地図を持ち、片方の手をポケットに突っ込み「ここなんですけど」と近寄ってきて隣に立つと突然、目の色を変えた。



「お前、中嶋琥珀だな?」



驚いて目を疑った。

空いている方の手に───刃渡り15cmほどのサバイバルナイフが握られていたからだ。

刃先は私の身体に向けられている。

地図で隠れているから、周りの通行人は異変には気がついてくれない。



「動くな。少しでも変な真似をしたら刺す」



刃先をじりじりと身体に近づけて来る男。

私は死を意識しながら、冷静でいられた。





場所、時間、派遣される人物、すべてが“予定通り”だったからだ。