絆と付き合ってから1ヶ月後。

何度か逢瀬(おうせ)を重ねた私たちはすっかり恋人らしくなり、『荒瀬絆に婚約者ができた』と尾ひれがついた噂が広まっていた。

しかし自分の存在がバレたことに慌てなかった。

なにせ、噂を広めたのが私自身だったから。




「……悪い、気をつけていたつもりだが、どこからか情報が漏れたみてぇだ」




そうとは知らず、一般人にまで嗅ぎつけられたことに謝る絆。

今日私は絆が住むマンションにいた。



「絆はいい意味でも悪い意味でも有名人だからね。いずれこうなることは予測してた」



絆は一瞬、その言葉にほっとしたような仕草を見せたが、すぐに渋い顔をした。



「伝えていなかったが荒瀬組は今、重大な局面に立っている。
琥珀が巻き込まれる可能性も否めない」

「……じゃあ、私はどうしたらいい?」

「琥珀はどうなんだ?」



質問を質問で返した絆に微笑んだ。



「私の気持ちなんて分かってるクセに。
言わせようとするなんてずるい」

「言わなきゃ伝わらねえこともあるだろ?」



少し意地悪をしたことを見抜かれ感心したような絆は私を抱き寄せ、その耳元で決意を口にした。



「俺はお前を手放したくない。ずっと俺のそばにいてほしい。
そこで厚かましい提案なんだが……俺と一緒に住まないか?
どちらにしろ琥珀の存在がバレてしまった以上、危険にさらさないために俺はお前を全力で守る義務がある。
こっちに住むならもちろん、流星と星奈も一緒にだ」



そう伝え終えると密着した身体を引き離し、目を合わせ真剣な眼差しを向ける。

私は驚いた。

こんな短期間で“いい方向”に転がってくれるとは。

というか、若頭とあろう人間が素性も知らない女にぞっこんなんて。


情報屋としての知識を駆使したとはいえ、ここまでうまくいくとは思っていなかった。

情報操作をしたとは思えない自然で(たく)みな誘導。

これらは全て、情報屋・梟による作戦の序章に過ぎなかった。