「お出かけしたかったのに」

 ぽつりと呟くと、カナは笑いながらわたしを見た。

「昼ご飯、外に食べに行こうか? で、食べたら、遊びに行く?」

「いいの?」

「もちろん」

 カナは笑う。

「ただし、お昼食べても、出かけられるくらい元気だったらね」

「ん」

 顔を洗ってから、今日のために用意した(と言うかママがプレゼントしてくれた)レースをあしらったシフォンのサマードレスに着替える。

 カナはわたしの隣をついて歩き、顔を洗えばタオルを手渡してくれ、着替をクローゼットから取り出し、脱いだパジャマをたたみもする。更に、今日の服にぴったりのカーディガンまで着せかけられた。

 本当にマメだなと思う。

 今日はカナのお誕生日なんだから、わたしの方が色々やってあげたいと思うのに、手を出す隙がない。……わたしがノロマなだけかも知れないけど。

「お嬢さま、おはようございます」

 食堂に行くと一緒に別荘に来てくれた沙夜さんが、出迎えてくれた。

「おはよう。……お寝坊でごめんね」

「いえいえ、少しは疲れは取れましたか?」

「うん。すごくスッキリした」

「それはよかったです。……ちょっとお待ち下さいね」

 そう言うと、沙代さんはキッチンに入っていった。

 外で食べるんじゃなかったの?

 思わずカナを見上げると、カナはにこりと笑い、わたしの肩にポンと手を置いた。

「お待たせしました」

 沙代さんは両手に大きなバスケットを抱えて戻ってきた。
 そう。まるで、赤毛のアンの世界のような、籐で編んだ可愛らしいバスケット。

「ありがとう」

 カナは笑顔でそれを受け取ると、左手に持ち、

「じゃあ、行こうか」

 と右手でわたしの背をそっと押した。

「と言っても、行き先は庭なんだけどね」

 驚くわたしの頬に、カナはサッとキスを落とした。


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