『蜂の巣を退治するには、青酸カリが使えるんだよ』

昨日、お屋敷に来た庭師が、そう言って青酸カリを使い、庭にできた大きなスズメバチの巣を退治していた。

『ねぇ、おじさん。それ、少し分けてくれない?』
『え? 何に使うんだい?』
『理科の実験。小瓶に入るくらいでいいから』

今それは、偶然にもポケットの中にある。

「あとは下に降りれば…」

トイレの窓から壁を伝い、外へおりた。

さすがに夏でも、ドレスだと少し肌寒い。

夕暮れの朱い雲が地平線の向こうへと沈んでいく。藍色の夜空が、空を包もうとしている。

ひんやりとした風が首筋をなでた。髪がなびき、近くの海の匂いがする。

私がいなくなったのは、すぐにバレる。その前に、できるだけ遠くへ逃げないと。

裏門へと走った。大勢の人が集まっているせいか、誰も私が逃げようとしているとは疑わなかった。

よし、いける! 門を通過する。そのとき、

「琴葉? どうしてここに?」
「れ、蓮…!?」