「ご両親が亡くなられてから、お兄さんと暮らしてるのよね?」

「はい…」

「昔から仲が良いそうだけど、お兄さんとは、うまくいってるの?」

中学の担任の先生を前に、私は大袈裟なほど笑顔をつくる。

……話せるわけがない。

チラリと見えた、胸元にできたアザを、静かに隠す。

「はい、とっても…」

憎いはずなのに、まだかばってる自分がいる。

たとえ昔と変わってしまっても、あの人は、両親を失った私にとって、たった一人の家族だ。

だから言えない。

本当のことなんて、誰にも…。