『部屋行く』



狼くんがそんなことを言うから、ご飯を食べ終えて、お風呂からあがったあと、部屋でそわそわして待っていた、のに。




……のに、この状況は、なんだ。




コンコン、とノックの音がしたかと思えば、こちらが返事するよりも先に開いた扉。

押し入ってきた狼くんは、大きな紙と黒マーカーペンを持っていた。




「机」




ああっ、狼くん、だめなんだから。
ものの名前だけ言って、頼んだってだめ。



小学生のときに叱られたでしょ?

『先生、机ー』
『こら先生は机じゃありません!』って。




なんて心のなかだけで、ぶうぶう文句を言いながら、結局何も言えずに素直にローテーブルを部屋の隅から引きずりだしてきた。




テーブルを挟んで、狼くんと私、向かい合わせ。

正座で向かい合っているなんて、まるでこれからお説教されるみたいだ。




狼くんが持ってきた紙を机に広げる。


紙だと思っていたのは、チラシだった。
なにも書いていない裏側の白いつやつやの面を表にして。