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 アイリスはハイランダ帝国の片田舎に居を構える、コスタ子爵家の長女として生を受けた。兄弟は双子の弟──ディーンの一人だけだ。

 コスタ子爵家は子爵家ではあるものの、領地は猫の額ほどしかない。元々はただの騎士爵だったのが、何人かの先祖が戦争で高い功績を挙げたとして徐々に爵位を上げ、今の地位になったからだ。
 お父様はコスタ家の男らしい大柄で屈強な男性で、普段は皇都にいて近衛騎士団長として働いていた。いつも厳しい表情をして眉間に皺を寄せており、娘のアイリスですらあまり笑顔を見たことはない。

 逆にお母様は明るく朗らかな人で、いつも笑顔だった。
 アイリスはこの二人を足して二で割ったらちょうどいいのに、と本気で思っていたほどだ。

「姉上、勝負をしましょう」
「望むところよ」

 その知らせが来たのは、いつものようにディーンと剣の手合わせをしているときだった。