05 あなたじゃない人との想い出。




『もう笑真とは付き合えない。
このマンションは3か月先の家賃は払ってあります。
この3年間は本当に楽しかった。俺、笑真と会えてよかった。
じゃあ元気でな。』

前触れ、なんて物は何一つなくて前日まで私と奏は笑い合っていた。

正に青天の霹靂つー奴で、初めは何かのどっきりかとさえ思った。

便せんに書かれた短くて淡泊な文面。まさかこの3年がたった一枚の手紙で終わるとは思っていなかった。


けれども、1日経っても3日経っても1週間経っても、一緒に暮らしていたマンションに奏が帰って来ることは無かった。

手紙だけを置き去りにして、姿を消してしまった人。直接顔も見ずに、さようならも告げずに私の前から忽然と姿を消した。 同級生を辿ってみても奏の行方を知る人はいなくって、携帯も契約は切られてしまっていた。

まるで始めから存在しなかった人かのように跡形もなく姿を消した。 私の初めて付き合った人で、人生で初めて本気で好きになった人だった。 あの日もこんな寒い冬の日だった。

「うん。ここの珈琲は旨いな」

「本当だ。すっごく香りが良いね。」

「この豆を買った喫茶店が雰囲気の良いお店でさ。今度一緒に行こうよ」

「そうなんだ。会社の近く?」