その姿を見たとき、紅覇は言葉を失った。


年頃の娘というのは良く分からないもので、一緒に行きたいと言ったり1人で行動したいと言ったり。

今日はそんな後者だったわけで。



「…また熊にでも襲われたのか」



村へと1人下りて行った背中が帰宅した頃、既に外は暗かった。

だからこそ迎えに行こうと紅覇が腰を上げたときだった。


急ぎ足で帰ってきた娘の頬はぷっくりと腫れている。

それは拗ねているからではなく、明らかに誰かに危害を加えられたもの。



「なにがあった」



暗くても分かる程に腫れている。

すぐに冷やすべきだろう。


かつてサヤが熱を出したときに人間の女に教えてもらったが、どこか身体に熱を持った場所はすぐに冷やすと良いという。

赤く腫れているその頬はきっと熱を持っている。



「村の女にでも叩かれたか」



どうやら図星だったらしい。

ずっと堪えていた涙がぶわっと糸が切れたように、ポロポロと流れ出した。