時は今から約500年前───。


のちに戦国と呼ばれる世、そんな山々に囲まれた人里離れた村に妖怪の巣窟があるという。


人々を困らせる妖怪が事件を起こす。

それは絶え間なく続いていた。



「今度は人食い妖怪ですって。なにも幼子を狙うらしいわ」


「嫌だわぁ。法師は何をしてるのよ」


「例え法師だとしても敵うわけないじゃない」



おっかあのお墓へ早く届けなくちゃ。

1人の少女は竹藪が続く細道へと駆け出す。


身に纏っているべべはボロボロで、今にも裂けてしまいそうだった。

タタタタッと走っても村の大人達は止めようとしない。



(おっかあ、あのね、今日はね───)



孤児(みなしご)など知れたこと。

戦で親を失った子など、今更珍しいことではない。



(これはサヤが採ったお魚だよ。おっかあも食べてね)



石を積み重ねただけ。

そんな場所だとしても少女にとっては立派な墓だった。


そっと両腕に抱えていた魚を置いて、サヤは手を合わせた。