駅の改札から自宅へと続く坂道を、全速力で駆け抜ける。




『私、家、出るから』




そのメッセージが届いたのはお昼休みのこと。




玄関のドアノブへ手をかけたところで、扉が内側から勢いよく開かれた。




「彩梅?」




「お姉ちゃん!」




良かった、間に合った!




はあ、はあ。




「家、出るって、どういうこと?」




息が切れて苦しくて、




膝に手をついたままお姉ちゃんに問いただす。





「ごめんね、彩梅。私、アメリカの研究所に行こうと思う」




「……え?」





「女が研究者になってどうすんだって、



ずっとあのバカ親父に反対されてきたけど、もう限界。



このままこの家にいたら、



私の魂まで、家柄に包まれてあの親父に売られちゃう。



私は家のために自分の人生を差し出すなんて、できない」





「で、でも」





「彩梅、あなたもあんな親父の言いなりになんてならないで、



自分で自分の人生を選びなさい。



じゃ、向こうについたら連絡するから」





「お姉ちゃん!」





スーツケースに手をかけて




お姉ちゃんを引き留める。




でも。




「落ち着いたら、彩梅も遊びにおいで」




私の手をほどくと、にっこりと笑って




お姉ちゃんは家を出て行ってしまった。




お父さんの家を揺るがすほどの怒鳴り声が響いたのは、



それから数時間後のこと。