年が明けて、春も過ぎ、今年もバラの季節がやってきた。

上品な薄紫色のドレスにパールのネックレスとイヤリング。

華やかに着飾っているというのに、今日もエマは目立たない存在である。

そんなモブ侍女は今、王都の中央地区にそびえたつ王立大聖堂にいる。

「レミリア様、とってもお綺麗です。国中……いえ、この世界で一番輝いているのはレミリア様です!」

支度室で化粧をして髪を結い、ウエディングドレスに着替えたレミリアを、エマは目を潤ませて褒めたたえる。

「エマったら、もう泣いているの? お式はこれからなのに」

「そうなんですけど、去年の大変だったことを思い出したら、今が幸せすぎて……」

「全てが丸く収まったのは、エマのおかげね。心からありがとう」

去年の秋のあの日、レミリアに無罪が言い渡された後、その日のうちに釈放されて家に帰ることができた。

モリンズ伯爵夫妻とシンシア、屋敷内の使用人たちの喜びと安堵は、言葉で言い尽くせない。

エマは伯爵から何度もお礼を言われ、照れくさくてたまらなかった。

そして翌日には王太子自らがモリンズ伯爵邸に足を運び、レミリアを捕えた件を謝罪してくれた。

その上、レミリアを娶りたいと正式に結婚を申し込んだから、モリンズ伯爵邸は大騒ぎだ。

地獄から天国へ。まさに夢のような逆転劇である。

嘆願書を書いてくれた有力者たちに、モリンズ伯爵がお礼を言いに回った際も、皆が喜び祝福してくれたそうだ。