七月末の蒸し暑い裏庭を、軽装のレミリアがグルグルと走らされている。

「エマ、もう終わりにして?」

「三十周に達したら終わりましょう。レミリア様、ファイトです」

「暑くて……苦しいわ」

「これまで引きこもってきたツケですね。今後は体力アップに励んでいただきます。私も一緒に走りますから、残り六周、頑張りましょう!」

これはもちろん、レミリアのステータスを上げるための特訓だ。

叱咤激励しつつ、三十周を走らせたら、その後はフラフラなレミリアの手を引いて屋敷に入った。

レミリアの部屋に入り、汗を拭いて着替えをさせ、水も飲ませたら、今度は笑顔の特訓である。

レミリアをソファに座らせて手鏡を渡し、エマはその傍らに立つ。

渋々といった様子のレミリアが手鏡に向けてぎこちなく微笑んだら、エマが容赦なく駄目出しをする。

「なんですか、その薄気味悪い笑顔は。まるで、魚をさばくのにエクスタシーを感じているおじさんのようです」

「せめておばさんにしてよ……。それなら、こう?」

「わざとらしいです。合コン中に『この子、美人でしょ?』と友達を褒めたように見せかけて、『私はこの子みたいにメイクが上手じゃないから、ほぼすっぴんで恥ずかしい~』と友達を下げて自分を上げる、あざとい女のような笑い方です」

「合コン……?」

意味がわからないと言いたげにレミリアが首を傾げたので、エマは人差し指を立てて解説する。