真っ直ぐ家に帰ると思いきや、剣馬が案内してくれたのは、オートロック付きのマンションだった。


「ほんとに部屋、用意してたんだ……」

「俺は嘘は言わない」


知ってる。
剣馬は卑怯なことはしない、誠実な男だよね。

ウソの恋人を作って逃げようとした私とちがって。

小さなリビングの他に、部屋はふたつあった。
狼の部屋と、私の部屋だそうだ。
ベッドと鏡が置かれているだけの部屋は、それだけで急いで避難所を作ってくれたのがよくわかって、改めて剣馬の優しさが胸にしみる。


「仁葵。ほら、目ぇ冷やせ」

「……ありがと」


冷たいタオルを渡されて、素直に受け取る。
泣いてパンパンに腫れた目に、ひんやりとしたタオルは心地良かった。


「これから、お前はどうしたい?」

「……私に、決めさせてくれるの?」