うららかな春の日。
朝も早くからシュタッドミュラー公爵邸には悲鳴が響き渡った。

「なんで、なんでぇぇぇぇぇっ!」

 悲鳴の主は、この家の娘、アイリーシャ・シュタッドミュラーのものである。

「なんで"玉"じゃないのよぉぉぉぉっ!」

 大きな鏡の前にいるアイリーシャは、鏡面に縋りつくようにして崩れ落ちた。
艶々とした銀色の髪に、神秘的な深い紫色の瞳。
大きな目は、長い睫毛に縁どられ、子供らしいふっくらとした艶やかな頬は、薔薇色。恐ろしいほどに完成された美貌を持つ幼児である。
フリルとレースが満載の寝間着は、シルク製。幼児にシルクの寝間着を着せるとか、確実にこの家は資産家だ。
頭の隅の方では、冷静にそんなことも考える。

(……転生はしたのよね、たしかに……というか、昨日までの記憶もあるし!)

 鏡の前で自分を見つめる。見つめ返してきたのは、"愛美"の顔ではなく"アイリーシャ"の顔。
両親と三人の兄がいる末っ子長女。家族全員から溺愛されていて、すくすくと育っているところ。