王立魔術研究所から、また一人消えた。自宅で倒れているところを発見されたそうだ。

「アイリーシャ様は?」
「こちらに来られるはずもないだろう」
「けど、あの犬は問題だろう……」

 そうやって、ひそひそとささやき合っている人達の側を、アイリーシャはするりと通り抜けた。

(いや、いますけどね、ここに! しっかりいますけどね! あなた達に見えてないだけで!)

 心の中でそう叫ぶ。
 アイリーシャの持つ能力は、こんな風に使うためのものではなかったはずだ。腕にしっかりと抱えられたルルが、情けなさそうに鼻を鳴らす。

「わかってるの。あなたのせいじゃないってわかってるから、安心して」

 ルルを強く抱きしめ、階段を登る。一番奥の書庫に入って、ようやく息をつくことができた。

(まさか、ルルに目をつける人がいるとは思わなかったわよね……)

 ヴァレリアの糾弾を、皆が皆、本気にしたとは思わない。けれど、アイリーシャの立場が非常に悪くなったというのは事実だった。

(もともと、魔力を暴発させたことがあるってだけで、イメージ悪いものね)