王宮の舞踏会に参加した翌日は思いきり寝坊してしまったが、寝坊したのは一日だけだ。その次の日には、王宮に出仕することになっていたからそれどころではなかった。
 王立魔術研究所に初めて出勤する日、アイリーシャは顔をこわばらせていた。仕事に行くのだからと、飾りの少ない地味目のドレスを選んでいる。
 アイリーシャと次兄のノルヴェルトは、王立魔術研究所に一緒に通勤することになっている。父は何かと忙しいので別行動だ。
 三男のヴィクトルは、王立騎士団の寮に住み込みである。勤務時間が不規則で、真夜中の見回りなどもあるためだ。
 馬車のところに行ったら、ノルヴェルトは大きなバスケットを手にアイリーシャを待っていた。

「緊張しているのか?」
「緊張はしていないと思うわ。お兄様と一緒に行けるから嬉しい」
「俺も、リーシャと一緒に行くことができて嬉しいよ。可愛い、自慢の妹だからな」

 家族はアイリーシャのことをリーシャと名で呼ぶ。離れていた期間が長いから、まだ小さな子みたいに思われているようだ。
 ごとごとと揺れる馬車の中、アイリーシャは考え込んだ。