第四章 雪舞い散り、初めて人の温もりを知る。




「俺と結婚すれば、君は正式な横屋敷家の人間になれる。面倒な手続きも不要だ」

横屋敷智樹 28歳。 現在入院中の祖父の代わりに横屋敷グループを取り仕切る。次期社長。

高身長で切れ長の猫みたいな目。いっつも笑っていて、優しい。 仕事が忙しい為、家に居る時間は少ないが毎日気遣って話をかけてくれる。

趣味はアクアリウム。 実の親は居ない。 それが私の知る智樹さんの全てだった。 結婚をする理由は一つもない。

「でも、私智樹さんの事何も知らない。
それに智樹さんだって私の事何も知らないじゃないですか。 それを急に結婚だなんて…」

「俺はまりあの事昔から知ってたよ。」

「…私の存在と所在が分かったのは最近の話ですよね?」

「それでも知ってたよ――」

智樹さんの言葉の意図と目的が分からない。 けれどジッと私の目を見る瞳は真剣で、テーブルに置いてある手を重ねた。

トクントクン、と水槽の水音と共に自分の胸の鼓動が刻まれていく。 優しいのに、どこか冷たい。 温かいのに、生きていないみたいだ。

にこりと笑顔を作ったけれど、本当に笑っていたかは定かではない。
智樹さんは握りしめた私の手を自分の口元へ持っていき、目を閉じて手の甲にキスを落とした。