第二章 椎名まりあの秘密。




横屋敷での生活は思った以上に快適だった。

広い屋敷内には数人のお手伝いさんが居て、いつも綺麗に片付けられている。塵一つ落ちていないんじゃないか、と思わせる程に。

時間を伝えておけば食事は自動的に用意されていて、特に私がする事はない。
智樹さんは私へ新しい携帯と共にカードを一枚預けた。ぴっかぴかのブラックカードだった。

ある人から見れば羨まれる生活だったかもしれない。けれどちっとも嬉しくはなかった。 生活に困らない物はクローゼットの中に用意されていたし、お洒落をして出かける場所もない。

自動的にこの大きなお屋敷で時間を潰す日々が増えた。 ものすごく暇、という事はなかった。 テレビらしき物は部屋にはなかったけれど情報ならば、携帯で得られる時代。

美しい水槽の中で泳ぐ魚達はどこか安心感があり、何時間でも見つめていられたし、自由に使っていいと言われた書斎には物珍しい書籍が沢山あった。


中学生の頃苛めにあっていたから、物静かな図書室に隠れるのが好きだった。だから本を読むのは嫌いじゃない。

読んでも読みつくせない程びちりと並ぶ書籍は、暇つぶしにはうってつけだった。

そしてこの書斎の窓からは、小さめな室内プールが見える。何という豪華な造りの家だ。維持していくのも大変だろうし、そもそも利用する人間が居るようにも思えないがいつだって綺麗に水が張られていた。