その週末。オレの隣には、とっても微妙な顔をしたハルがいた。

「……今日、大丈夫だったら、次はどこか、ほんの少しでいいから遠いところに行ける?」

 オレがハルを気づかって選んだ場所だと分かっているから、ハルは決して文句は言わない。

 ただ、珍しく更なるリクエスト。

「うん、もちろん!」

 真顔で力強く頷くとハルは苦笑い。

「ごめんね、無理言って」

「いや、オレこそごめん。……何というか、まだ免許取って日が浅いし、いきなり遠出は怖くて」

 思わず言い訳がましい言葉を口にするけど、これも半分詭弁。
 ハルは乗せていないけど、兄貴に付き合ってもらったりで、車の運転はボチボチ練習していて、ハルもそれは知っているから。

 オレが怖がっているのがハルと二人でのドライブだって、ハルは分かっている。

 だって、オレが運転していたら、ハルが具合が悪くなっても、すぐに対応できないし、運転中にハルばかり気にしていたら危険だし……。

 やっぱり、近場からスタートは基本だよな?

「ハル、シートベルト締めた?」

 自分のシートベルトを締めながら、ハルの様子を伺う。

「うん、今……」

 いつもと違うシートベルトを少しもたつきながらハルもカチャッと締める。

 運転席にオレ。助手席にハル。

 同じ車の中で、ハルとの間に、いつもはないギアがあり、目の前には前の座席の背中ではなく外の景色が広がっている。

 ものすごい違和感。
 だけど、ものすごくワクワクする。

 例え、行き先が車で5分の距離の牧村総合病院だとしても。

「じゃあ、出発しようか」

「うん。よろしくお願いします」

 ハルはきっと心の中では色々と思っている。だけど、何も言わずに優しく笑った。