『なんで出てくれへんかったん?!』

「あー、ごめんごめん!」

電話越しに圭兎がワンワン喚く。

「今カラオケおんねん。悪いけど長い話やったら聞けへんわ。」

『メッセージ返ってこんから電話しただけやでええよ。で、どこのカラオケなん?』

「え?岡高の最寄り駅前のやけど。」

『ふぅん。僕らもな、バスケ部の親睦会でファミレス来てんねん。』

「……はぁ。」

確かに圭兎の声と共にガヤガヤと騒がしい声が聞こえていた。
衣奈は、なんで電話してくんねんと思いながらも適当にあしらって電話を切った。

電話を切ると圭兎からポンポンとしつこくメッセージが送られてきた。

『僕も青蘭の近くのファミレスやねん。帰り被ったら一緒に帰ろ。』
『岡高の制服姿の衣奈が見たい〜。』
『あ、南はいらんからな。』

「鬱陶しいなぁ……。」

「あ、衣奈ちゃん。こんなとこおったん。
恵里香探しとったで。」

ひょいと廊下の角から顔を出したのは清依だった。
片手にコップを持っていたから偶然部屋の外で電話をしていた衣奈を見つけたのだろう。

「あ、ありがとう。」

「電話?」

「うん。小竹くんはドリバ来てたん?」

「そや。見て、コーラとメロンソーダ。」

「色なんか汚い……。」

清依はワハと笑うとドリンクを飲み干してしまった。

「もっかい取ってくるから待っててくれへん?」

「うん。」

「衣奈ちゃんはなんか飲まへんの?」

「あ、まだコップに残ってんねん。」


ウーロン茶を注ぐ清依は腰に手を当てて大人しく待っていた。
機械がズゴッと苦しそうな音を立てて止まると、清依はコップを持ち上げた。

「次、ウーロン茶なんや。」

「意外?」

「うん。なんかコーラとか炭酸好きそーやったから。」

「両方好き。衣奈ちゃんはアレやなオレンジジュース。可愛い、お子ちゃま。」

コップを持っていない空いた手で衣奈の髪を乱すと何が面白いのか清依はケタケタと笑った。
衣奈はボウッと前髪を直しながら遠くなる清依の背中を見つめた。