駅ビルの中を特にあてもなくぶらぶらし、たまに綾が服を見て『これなんてどう?』と、僕に意見を求め『いいんじゃない?』と無難に返したりしていると、いつの間にか結構な時間が経っていた。

「そう言えば綾はもう講義ないのか?」

「ええ、私も今日は2限だけだから」

 綾の遅めの昼食に付き合って、1階にある全国チェーンのカフェに入った。僕はコーヒーを、綾はコーヒーとサラダのサンドイッチを目の前に置いている。

「そっか」

 綾がサンドイッチを手にしたのであまり深追いしないように短く返し、コーヒーを一口飲んだ。

 食べているのはただの何処にでもあるサンドイッチなのに、モデルの様な彼女が食べているとまるでドラマか映画のワンシーンに見えて来る。

 そんな事を考えていた時だった。

「私と付き合ってくれない?」

 サンドイッチを咀嚼して、ゆっくり飲み込みコーヒーで口の中を流した綾が唐突に言った。

「・・・は?」

 僕の口から間抜けな声が漏れたのも仕方の無い事だったと、自信を持って言える。

「だから、私と付き合わないかと言ったの」

「いやいやいや、待って、何でそうなるわけ?」

 まともに話したのは今日が初めてで、ぶっちゃけて言えば名字すらうろ覚えな程接点がない女の子。おまけに才色兼備を地で行くハイスペックな彼女が、僕に対して特別な感情を持っているなどと自惚れる程頭は悪くないつもりだ。

「ああ、少し説明不足だったかしら」

 この一言で『ああ、やっぱり言葉のアヤか、綾だけに』なんてゆう、普段の僕ならば絶対に言う事はない台詞が頭に浮かんで来る。

「さっきも言ったけれど私のカナタの評価は凄く高いのよ。だから・・・」

 見る見るうちに綾の耳が赤く染まって行く。

「ちょうど良いと思ったのよ」

「ちょうど良いって何が?」

「去年入学してから1年ちょっとの間に、まあ、その、なんてゆうか、色々男性に声をかけられる事が多くて」

 段々と尻すぼみに小さくなって行く彼女の声に合わせるように、その視線は下がって行き今はおそらくサンドイッチの載っていた皿に焦点が行っているだろう。

「だから!特定の男性と付き合ってるって広まればそれも無くなるかと思って・・・」

 強く言った『だから!』の部分で彼女は顔を上げたが、また尻すぼみに声と視線下に向かってフェードアウトしていく。

「・・まあ、言わんとする事は分からなくもないけど、やっぱそうゆうのは好き同士でするもんだろ?」

「それは勿論そうなのだけれど・・・」

「モテるのが煩わしいってゆうのも気の毒だとは思うけど、美人に生まれた税金だと思ってさ。その内落ち着くだろうし」