表面上は穏やかに時間が流れ、テストもハルカと博人の悲鳴を伴って終わるとすぐに長い夏季休暇に入った。

 僕は同郷の博人と一緒に、お盆を含んだ1週間程帰省した。一緒に帰っていたハルカだけもう少し残ると言ったので帰りは博人と2人だった。

 新幹線に揺られる間は博人のラノベ談義、主に【妹恋】の話しに付き合わされ、自分の作品の何処が素晴らしいかを延々と聞かされるとゆう羞恥プレイに何度か発狂しそうになりながらも、なんとか耐え抜いた。

 それは到着までもう30分を切った辺りだった。

「【妹恋】ってさ」

「もうわかったから、散々聞いたっての」

 いい加減羞恥プレイに耐えるのも限界だった僕は博人の言葉を遮った。

「書いてるのカナタだよな」

「え?」

「高花流華、ハルカカナタのアナグラムだよな。最初は偶然かとも思ったんだけどさ、名前だけならともかくあの内容がな・・」

「いやいや、んな訳ないだろ」

「言いたくない気持ちもわかるけどな、高校から知ってる俺からしたら絶対そうだって思うわ、特に最新刊な」

「だから違うって、冷静に考えろ。お前の好きなラノベの作者が実は友達でしたって、もはや天文学的な確率だぞ」

「友達じゃなくて親友な。まあ、別に言いたくないならそれでいいんだけどさ、何か困って俺に出来る事あれば言えよ」

 いつも通りの博人で、いつも通りのゆるさで、大した事じゃ無いと言わんばかりのその態度は僕にとって救いだった。

「僕じゃないけど、仮に僕だとしてさ博人は・・その、何とも思わないのか?僕じゃないけどさ」

「わかったわかった。まあ、ぶっちゃけ気持ち悪りぃと思うぜ」

 おっと・・

「有り得ねえし、妹をって考えても1ミリも理解出来ないよ。嘔吐感すらある」

 チョットヒロトサン、オブラートイルトオモウンダケド

「ラノベとかは有り得ないから面白いし、可愛いって思えるから好きだけど、現実とは違うからな」

「だ、だよな・・」

「つうわけで理解出来ないし、したいとも思わないけど、それと親友の力になりたいってのはまた別の話だからな」

 僕は不覚にも目の奥が熱くなり、必死で堪えてた。

「ああ、サンキューな。僕の話じゃないけどな」

「クサい事言うぞ、もしカナタの周りが、世界の全部がお前の敵になったとしても、誰もお前を認めなかったとしても、俺だけはお前を認めてやる」

「・・だから、僕の話じゃないからな」

 僕はそれだけ返すので精一杯だった。