「ヤバいね…」

圭介は 作り笑いさえ できないほど

表情を 引きつらせている。


「うん。もうなるようにしか ならないよ。」

「涼子は 旦那が留守だから いいよ?」

「はぁ。それ 今言う?」

「ごめん…」


私は 繋いでいた 圭介の手を離す。


圭介の危機は 私にとっても 危機なのに。

旅行しようって 言ったのは 圭介の方だし。


そんなに 動揺するなら 

旅行なんて 誘わなければいい。


そもそも 浮気しなければ いいのに。


手を離した私に ハッとして

圭介は 振り返って 私を見る。



多分 私達は 終わった…


今日 帰れたとしても

もう元通りに 戻ることは できない。



圭介は 私の気持ちを 察したのかどうか…


もう一度 私の手を取ると 

特別空席待ち整理券を もらうための

長い列に 私達は並んだ。


私達の前に 並んでいた 年配の男性が

通りかかったスタッフを 呼び止める。

「今日中に 飛びますか?」

「大変 申し訳ありません。今の所 未定です。」

頭を下げて 通り過ぎるスタッフ。


もし 飛べたとしても このたくさんの人達を

どんな 順番で 飛行機に乗せるのだろう。


飛行機に乗ることは 不可能に思えて

私は フウッとため息をつく。


長い時間かけて やっと 整理券を 入手して。

「涼子 振替便の予約も しよう。」

圭介は もう一度 別の列に並ぶ。



ホテルを出る時 午後には 

天候が 回復するかもしれないって

フロントで 言っていたけど。


こんなに たくさんの人が 

飛行機を 待っているなんて。


事態は 私が 思っていたよりも

すっと 深刻だった。