「朱里さん、あれからタケルさんと仲直りできたんですか?」

 偶然化粧室で一緒になった朱里に葉月が話しかけた。

「うん、お陰様で。心配かけてごめんね」リップを片手に鏡の前で化粧直しをしながら朱里が言った。

 葉月は以前、月野から聞いたことを朱里に言おうか迷っていた。

今さら月野の浮気は誤解かもしれないなんてことを朱里に言っても仕方ないのかもしれないが、このままでいいのか葉月は内心疑問だった。

 もう終わったことだと月野は言っていた。だから、もういいのかもしれない。

今後、朱里の誤解は解けないまま、お互いに別の好きな人と一緒になって幸せになるのかもしれない。

 でも、それは果たして朱里と月野にとって、本当にいいことなんだろうか。

「葉月、ごめん。ビューラー持ってる?」

「持ってますよ」葉月はそう言うと、ポーチからビューラーを取り出して朱里に渡した。

「ちょっと借りるね」

 朱里は丁寧にビューラーで睫毛を上に上げている。いつもより念入りな朱里の化粧直しを見て、葉月は不思議に思い、「もしかして今日はデートか何かですか?」と訊いた。

「えへへ。わかる? 仕事が終わったらタケルとご飯行くんだ」朱里は満面の笑みを浮かべながら言った。

「へー。いいですね」

「私が前から行きたいって言ってたお店、わざわざ予約してくれてたみたい。この前のお詫びだって」

「できる男だなー」

「でしょ? よし、バッチリ」朱里はそう言うとお礼を言って葉月にビューラーを返した。

「あの、朱里さん」

「何?」

 朱里は鼻歌を歌いながら台に置かれた自分の化粧品を片付けている。そんな楽しそうな朱里を見た葉月は、月野のことで喉まで出かかった言葉を呑み込んだ。

「タケルさんとご飯、楽しんできてくださいね」

「もちろん」朱里は気合充分と言うような顔をしながら言った。

 やはり今月野のことを話すのはやめておこう。

これだけ幸せそうなのだから、いつか言うべきタイミングがきた時に朱里に言おう。葉月はそう心に決めた。

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