会社についた玲奈は自分のデスクの上に鞄と、来る途中で買ったコーヒーを置いた。

今は7時40分始業開始時間は8時30分のため、まだ誰もいない。デスクの椅子に座り買ってきたコーヒーを口へと運ぶと、口の中に苦みとコクが広がる。

ほうっと息を吐き出し、耳を澄ましても何も聞こえない。シーンとした、空間に一人きり……。

玲奈は一人きりになれるこの時間が好きだった。

コーヒーを飲み終えると、口の中に広がる苦みのおかげで頭がスッキリとし、脳が動き出すようだ。

さあ、今日も頑張るぞ!!

朝一にある会議用の資料を人数分、会議室へと運び並べていく。その後は給湯室へ行き、誰でも飲用できるコーヒーメーカーの用意をする。

コーヒー豆と水をセットし、これでOK。時計は8時を過ぎていた。


そろそろ誰か来る頃ね。


そう思っているとガチャッとドアが開き、同時に元気な声が聞こえてきた。

「おはようございます」

入社1年目の山口涼(やまぐちりょう)23歳

ベビーフェイスで屈託のない笑顔を振りまき、入社1年目にして営業成績はかなりいい。身長も175センチはあるだろう。社内でも人気の人物だ。中性的なそのベビーフェイスによく似合う柔らかそうな髪を仕事に支障のない程度の茶色に染めていた。

「一条さん今日も早いですね」

「おはよう。山口君、朝一で会議があるから」

「やっべー、そうだった!資料用意……あれ?ここに置いてあったのに……」

「大丈夫よ。もう会議室に並べたわ」

「さっすがー。一条さん」

そんな会話をしていると次々に社員達が入ってきた。

「「「おはようございます」」」

先ほどまでの静けさが嘘のように、オフィス内が賑やかになっいく。

それから遅れること10分、始業開始3分前に来たのが、山口くんと同期入社の佐藤萌(さとうもえ)23歳

誰からも愛されるであろう可愛らしい容姿に、クリッとした大きな瞳、ぷっくりとした赤い唇、ゆるやかにウエーブした茶色い髪をハーフアップにしていた。

「おはようございまーす」

可愛らしく語尾をのばす萌。

周りにいた男性社員達とニコニコと挨拶を交わしている。