あのリビングでの出来事から、これと言って加藤との間で変わったことは無かったが、一つだけ変わったことがあった。

それは玲奈の呼び方だ。

今まではお嬢様だったが、今は玲奈様へと変わっていた。なぜ変わったのか、なんとなく聞けずにいた。

そして今、あの日のデジャブの様な状態にいる。

加藤はソファーに座る私の前に両膝をつき、私を包み込むように両手をソファーについている。

「玲奈様……あいつに惹かれているのですか?」

「えっ……ちがっ……」

匠はそっと玲奈に頬に手を滑らせ熱い眼差しを向けた。

「渡さないって言いましたよ。守らせてほしいと……」


触られている頬から火が出るのではないかと思うほど熱くなっていく。

いつも優しい加藤の目が真剣すぎて目が離せない。

「加藤……」

「違いますよ。匠……俺の名前は匠ですよ」

おっ……俺ーーーー!!。

いつも品行方正の加藤が俺って……。

匠の発した俺と言う一人称にドキリとしてしまう。

「えっと……」

匠?今までずっと加藤だったのに……。

何だか恥ずかしくてモジモジしていると、

「呼んで……」

何時にない甘い声で囁かれる。

玲奈は甘い声の囁きに体がしびれ、催眠術にでもあっているかのように口が開いていく。

「た……たくみ」

「ありがとうごがいます」そう言ってにっこり笑った匠の顔はとても綺麗で、胸がドキンっと跳ねた。