徹さんと一緒にマンションの駐車場まで降りてきた私は、車の前で立ち止まった。

目の前にあるのはピカピカに光った大きな車。
車なんてずっと縁が無くて買おうと思ったこともないけれど、このエンブレムは私でも知っている。
考えてみればこのマンションだって、都心の一等地に立つ高層マンション。
やっぱり徹さんってお金持ちなのね。

私は、車と徹さんの顔を交互に見比べた。

「何してるんだ?」
「別に・・・」

何をしているわけでも無い。
ただ、自分がホイホイとお金持ちについていく軽い女に思われているようで、

「今更、男の車には乗れませんなんて言うつもりか?んなわけないよな。昨日も一昨日も俺の家に泊まったんだから」

「・・・」
何も反論できません。

「何か文句でもあるのか?大抵の女はこの車を見れば喜ぶぞ」

なぜかうれしそうに、徹さんは助手席のドアを開けた。

「そうでしょうね」

普通の女の子はきっと喜ぶ。
私だって、普通に出会って親しくなった人の車なら、喜んだと思う。
でも、今の私は惨めでしかない。

「ほら、行くぞ」

まるでお兄ちゃんがするように、肩を押しながら私を助手席に乗せてしまった。