そもそも、なぜ見知らぬ男性の部屋で朝を迎えることになったのか。
その原因は、昨日の夕方にさかのぼる。



「お待たせしました。長谷川乃恵(はせがわのえ)さんですね?」
「はい」

窓口で名前を確認され、私は白い紙袋を受け取った。

「前回の受診から随分間が開きましたが、お薬はちゃんと飲めていますか?」

カウンター越しに、白衣の男性が優しく話しかけてくれる。

「ええ、まあ」
「そうですか」

いつも同じ病院で受診をし同じように薬をもらっていれば、受診の間隔に対して薬が足りていないのは分かっているだろうに、目の前の男性は何か言いたそうに言葉を濁した。
それに、この人は気づいていない。
私はこの病院の・・・

「お薬自体はそんなに強い物ではありませんが、できるだけ指示通りに飲んでくださいね。油断して症状を悪化させてしまっては元も子もありませんから」

見た感じ私よりだいぶ年上に見える薬剤師は、遠慮気味に言ってくれた。

「はい、気をつけます」
私も素直に頭を下げた。

考えてみれば、私がこの病院へ通院するようになってもう10年近くなる。
元々体が丈夫でもなかったし心臓が弱いのも分かっていたけれど、子供の頃は薬に頼ることもなく元気に過ごしていた。
運動が苦手だという意識はあっても、普通に走ったり泳いだりもできていた。自分が周りの友達と違うなんて思ったこともなかった。