【美濃side】

 信長と紅の勝負を見ながら、紅の居場所は私の側に仕えることではないのだと感じていた。

 紅は男にしては体格は小さい方だ。その紅が信長と対等に戦っている。織田家の家臣の中でも、剣術は優れている。

 本来ならば、武士として戦で名を挙げ、他の家臣のように領地を与えられ、歴史書に残るくらいの戦国武将になっていただろうに。

 それなのに私の側に仕え、その力を発揮することなく、好きな女性との結婚も諦め、男としての生涯を終えるにはあまりにも惜しい人物。

 そろそろ私の護衛から、解放してやるべきではないだろうか。

 そう思っていた矢先、信長の一打で肩や背中に打撲を負った紅。信長に無理矢理襟元を広げられ、鎖骨が見えた。

 その鎖骨は……
 まるで女性のような、美しい鎖骨だった。

 あたしは思わず目を見開く。

 右肩に小さな黒子(ほくろ)……。
 あの黒子は……。

 まさか……!?

 そんなはずはない。
 これは単なる偶然だ。

 紅の顔や容姿は確かに紗紅とよく似ている。紅と一緒にいると、不思議と心が穏やかになれた。

 でも……。
 妹の紗紅と、私が同じ時代にタイムスリップするなんて、今まで考えたこともなかった。まして紅が女性である確証はない。

 万が一、そうであったとしても。
 今さら紗紅に、姉であると名乗りを上げることは出来ない。

 なぜなら、私が帰蝶の身代わりとなり、信長に嫁いだことが公となれば、私の命だけではすまされないからだ。

 気性の激しい信長のこと、真実を語れば、織田家と斎藤家との諍いが起きかねない。