【紗紅side】

 ――信長様?

 年配の男性が、生意気な男をそう呼んだ。

 信長と呼ばれた男は、威張りくさっているが、まだ少年のようにも見える。

 一体、幾つなんだろう。

 テレビでも映画でもないとしたら、これは何なの?

 髷を結い、腰に刀を差した男達。
 女だとバレると、何をされるかわからない。

 ――「そなたは黒き紅をさしておるな。女か? 女ならば、わしが鳴かせてやろう」

 鳴かせてやろう?
 ガキのくせに。
 あたしがお前を泣かせてやるよ。

 あたしは咄嗟に男だと嘘を吐き、自分の身を守るために性別を偽った。

 一刻も早く、このイカレタ男達から逃げ出したい。これが映画の撮影でないのなら、頭のおかしい連中に付き合っているほど、あたしは暇じゃない。

 美濃や仲間を早く捜さないと。

 月華に暴行され傷付いた体に追い打ちを掛けるように、倉庫崩落の衝撃で怪我を負った足はズキズキと痛み、歩く度にポタポタと血が滴り落ちた。

 ――「異人の女ならば抱くもよしと思っておったが、男であるならばわしと勝負し、この信長を負かすことが出来たなら、家臣にしてやってもよい」

 このあたしがコイツの家臣?
 それって、下僕(げぼく)? パシリッてこと?

 誰がこんな奴のパシリになんか、なるものか。

 畳の上に転がされた木刀を掴み、信長を追い庭に飛び出す。

 黒紅連合総長、斎藤紗紅。
 喧嘩には自信がある。
 こんな奴に負けたりはしない。

 痛む体を庇いながら、小雪の舞う庭で、あたしは信長との戦いに挑む。