「乗りな」

 女子は後部座席のドアを開く。私は車の後部座席に乗り込む。車の中には2人の男性がいた。1人はサングラスを掛け運転席でハンドルを握り、もう1人は後部座席に座っていた。

「あざみ、この女、黒紅連合の総長じゃねぇじゃん」

 後部座席に座っていた金髪の男性が、ゴツゴツした指で私の髪に触れた。

「やめて下さい」

「自分から車に乗って、やめて下さいはねーだろう。俺達はあざみが女を紹介してくれるって言うから、わざわざ来たんだぜ。あざみ、話がちげぇよ」

 助手席に座っていた女子が、不敵な笑みを浮かべながら後ろを振り返る。

「おとなしくしろ」

「私は妹に逢うために車に乗ったのよ。妹に逢わせてもらえないなら降ります。降ろして下さい」

 運転席の男がオーディオのボリュームを上げる。次の瞬間、車は意に反して発進する。

「妹に逢わせてやるよ。あんたはそのための大事な餌だからね。そう簡単に降ろすわけにはいかねーんだよ。(さとる)、約束どおりその女、好きにしていいよ」

「そうこなくっちゃ」

 男が私の体に抱き着いた。
 ねっとりした唇が頬を掠める。

 一瞬、何が起きているのかわからなかった。でもすぐに自分が騙されたことに気付く。

「いやあぁー……離して。車から降ろして……」

「そうはいかねーよ。こんな上玉、なかなかお目にかかれねぇかんな。色白で綺麗な顔してやがる」

 男は私の口を押さえ、体を押さえつけた。首を左右に振り抵抗するが、男の力には敵わない。

 車中には大音量のロックと、卑劣な笑い声が響いた。