「名は何と申す?」

 異人は家臣を見据えたまま、首を左右に振る。

 長き髪は茶色。その髪を馬の尻尾の如くひとつに束ね、黒目がちな大きな目を見開き、白い肌に黒き唇。

 一見怯えた風でもあるが、その眼光は鋭く光り、唇を一文字に結んでいる。

 黒い服の背中には、色鮮やかな赤い牡丹の花に戯れる黒い蝶と紫色の蝶が刺繍され、赤い文字で黒紅連合と書かれていた。

 何処の国から流れ着いた異人なのだろうか?

 黒い(べに)をさす者など、この戦国の世で初めて目にする。

「信長様、この者を捕らえますか?」

「好きにしろ」

 異人は弱っているようにも見えたが、家臣に激しく抵抗した。

「小僧! 小癪な!」

 家臣は木の枝を振り回し歯向かう異人を捕らえ縛り上げ、荷のように肩に担ぎ馬に乗せた。

 異人は口を手拭いで封じられてもなお、その鋭い眼光で我らを捕らえた。