慧さんと菫さんは知り合いなのかもしれないという可能性が浮上して以来、しばらく私の心の奥底にはかすかな靄がくすぶっていた。

ふとした瞬間に、ふたりにはなにか繋がりがあるのかもしれないと気になってしまう。

菫さんとはあれからまた一度ランチをしたが、慧さんのことについては聞けなかった。私の中にあるのは、あまりにも漠然とした疑惑だから。

そう、ただの考えすぎということも十分ある。それに、ふたりが知り合いだったとしても、私たちの夫婦関係になにか影響があるわけではない。

オフィスでは相変わらず堅物な社長のままで、プライベートでは旦那様として甘く変化する慧さんとの生活は、まったく問題なく送れている。

先日は私の二十六歳の誕生日で、一流ホテルのフレンチレストランでお祝いをしてくれた。妊婦にはありがたい、フラットで上品なデザインのウェルネスシューズもプレゼントしてくれて、本当に嬉しかった。

赤ちゃんも順調に育っていて、幸せすぎる日々だ。それだけでいいのだから、必要以上に気にすることはやめた。

今は生まれてくる子のことを一番に考えよう。そろそろ出産前後の準備を本格的にしなくてはいけないし、入院に必要なものや、赤ちゃんの服もそろえなければ。