ーーー人は、誰もが。



それぞれの思いを抱え。

待たぬ時の流れに引っ張られるように、ただ前を進んでいくしかない。









「…今宵は、月が見えないのですねぇ…」






新設ホテルの最上階にあるスイートルームから望む夜景。

しかし、浮かぶ夜空は厚く雲に覆われていた。

星の輝きどころか、月すら見えない。



そんな夜景を望み、そう呟く彼女の手には…数本の黒い羽根。



すると、後ろから「すみません」と、その羽根をそっと奪われる。

背後に気配を感じて振り向くと、そこには涼しい男性の笑顔が。

彼は、自分が呼んだ調査員である…陰陽師。



「あら。いつまでも持っていてすみません?」

「いえ。お手が汚れるといけないので」



そんな紳士的な態度で接する彼も、ふと外を見上げる。



「今宵は下弦の月だそうですよ?雲に隠れて見えませんが」

「まあ」

「そして、当日は…新月。新月の夜は『闇』の気が最も活性する日でして」

「…まあ」

「…だからと言って、我々が屈することはありませんけどね?」