「ちょっと聞いておくれよ未来ちゃん、魔王さん。最近、隣の山岡さんが、夜になったら人が変わったみたいに外を徘徊してねえ。獣みたいに吠えるし、目も光ってるんだよ。もう怖くて怖くて。どうにかならないもんかね?」



何日か経って、店番をしていたら、山岡さんちの隣に住むカロルおばさんがやって来ました。


道具屋にはこういう依頼もたまに舞い込むのです。


「ええい、また山岡か! 人見知りの癖に大胆不敵なやつ! 人の迷惑を考えたらどうだ!」


私の隣で話を聞いていた魔王が、全身を震わせて口を開きました。


まさか魔王から、そんな言葉が飛び出すとは思いもよらなかったです。


「うーん、私にはどうすれば良いかわからないです。ちょっと待ってくださいね。今、マスターを呼んで来ますから」


こういう事案は、知識が豊富なマスターの方が得意なはずですから。


そう言って、奥の部屋に呼びに行こうとしたのですが。


「ふん。そりゃあ動物霊に憑かれたな。『聖なる雫』を飲ませれば、元に戻るだろう。だが、あいにくそれは切らしていてな。丁度素材収集がてら取りに行こうと思っていた所だ。安くはないが、どうする?」


マスターが、今の話を聞いていたのか、のっそりと店に現れてカロルさんにそう尋ねたのです。


「ああ、へそくりで何とかするよ。ただでさえ何してるかわからない男が、あんな事になるなんて気持ち悪くてたまらないからね」