六月の北海道の気温は本土より、二度ほど低い。中学二年生の榎本未来(えのもとみく)は柔らかな毛布を頭からかぶり、寝息を立てていた。

「アホ未来起きろ〜!!」

毛布を剥ぎ取られ、未来の頭を何者かが叩く。未来は「ふぎゃっ!!」と悲鳴を上げながら飛び起きた。

「あ、お兄……」

あくびをする未来を、高校生の兄が怒りのこもった目で睨み付けている。そして未来はまた頭を叩かれた。

「痛ッ!」

「早く着替えろ!牧場の朝は早いって知ってるくせに何でいつも起きれないんだ!!」

兄に言われ、未来は「ごめん、すぐ着替える」と言いベッドから降りる。未来の家は巨大な牧場を経営しているのだ。観光客にしぼりたての牛乳でバターを作ってもらったり、乗馬体験をさせている。

未来は薄い水色のパジャマから汚れてもいいジャージに着替える。今から馬の散歩をしたり、牛の乳しぼりをしたりするのだ。

「……今日もまた笑われるのかな」