こんなところで会うとはな……。

今日、打ち合わせに来たSHINEの山中さんは、高校の時、俺が好きだった女。いや今も好きな女だ。

「いい女になったなぁ……」

自然に独り言を言ってしまった。それくらいアイツは綺麗になっていた。

「社長?」

「あぁ、何でもない」

「蓮翔……。もしかしてあの人がそうなのか?」

「あぁ……」

「蓮翔が忘れられないはずだわ」

「ほっとけ……」

「俺が独身なら好きになっていたかも?」

「お前は大好きな奥さんと娘のことを考えていればいいんだよ……」

「……ははっ。何怒ってるんだよ〜。冗談だろ。俺は奥さん一筋だから、大丈夫だよ。本当に彼女のことが好きなんだなぁ。そんな余裕のない蓮翔、初めて見たわ……」

「どうにでも言え……」

秘書の滝野とは、大学からの友達だ。アイツもかなりモテるのだが、彼女を作らなかった。なのに、急に好きな女ができ、あっという間に結婚し、去年可愛い娘が生まれた。

その3人の姿を見ると、俺もそろそろ……と、考えてしまう。

俺がいて、秋帆がいて、子供がいて……。

そんなことばかり考えてしまう。

俺は、ずっと秋帆が好きだ。

秋帆は、ちゃんと自分というものを持っていて、人の意見に左右されないところに惹かれた。

高校1年の時、席がたまたま隣だったということもあり、話すことが多くなった。というか、俺がいつも絡んでいくだけなんだけどな。いつの間にか、それが生活の一部みたいになっていた。

よくわかんねぇが俺はモテるらしい。きっと俺の見た目だけに好意をもっている人がほとんどだか、秋帆は俺に、カッコイイなんて言ったことはなかった。だから、俺を外見だけで見る女じゃなかった。それに、一緒にいて楽だった。

好きだと気づいたのは、高校2年の頃からだったか……。

俺がよく告白されるようになった。秋帆は、相変わらず変わらなかった。少しはヤキモチやいてくれるかと思ったのに……。全然ダメだった。

秋帆は、本当に俺のこと何とも思ってねぇんだって自覚した。

なのに、3年の文化祭の最終日。
打ち上げの時、俺は友達といたがどこを探してもアイツがいない。みんな盛り上がっている中、俺はアイツを探しに行った。

やっと見つけたのが教室だった。

アイツは、みんなが打ち上げで盛り上がる中、1人で片付けをしていたのだろう。アイツらしいなっ。優しく微笑んでしまう自分がいた。

俺はアイツが大好きないちごミルクと俺の好きなカフェオレを買い、教室へ向かった。


「蓮翔……好きだよ」

静かな教室から、秋帆の声が聞こえた。

俺は耳を疑った。アイツが俺を好き?

「マジか?」

本当だったらめちゃくちゃ嬉しい。
俺は秋帆が大好きだから。

でもアイツ……。

何で泣いてるんだよ。俺は、心配になり、教室のドアを開けた。

秋帆はかなり驚いていた。泣いている秋帆を見て、不器用な俺は、何もすることが出来なかった。

いつも俺様を出して、Sっ気たっぷりな俺なのにいざ好きな女が目の前で泣いてるのに、抱きしめることも躊躇してしまう。

それなのに馬鹿みてぇに
泣いてるのか?なんて聞いてる。

はぁっ、お前はホントに馬鹿だな。
自分で自分を殴りてぇ。

情けねえ……。

兎に角、普通にする事しかできなかった。本当、カッコ悪い。アイツの好きないちごミルクを渡すのが精一杯だった。

「打ち上げいかないの?」

「なんかめんどくせぇ。お前は?」

「私は……なんか疲れちゃったから行かない」

「あっ、そう」

オマエがいない打ち上げなんか行ってもつまんねーし。

そう素直に言えば、今と違った未来が待っていたのだろうか?

今となれば後悔ばかりだ……。この後、アイツがとんでもないことをするとは思ってもいなかった。