パラリ、とページのめくる音がする。ソファに腰掛け、上品なラベンダー色のドレスを着た女性が本を読んでいた。

「この単語はどういう意味だったかしら……」

女性が読んでいるのは、自国の言葉で書かれたものではなかった。遠い異国の言葉で書かれている。女性は外国語の本を読むのが好きなのだ。

「そういえば、今度の週末にこの国の人たちの交流会があるそうね。行ってみようかしら。その時に、言葉を教えてもらいましょう」

そう微笑む女性の頭には、懐かしい顔がある。知らない言葉を覚えようとするたびに、女性ーーーローズ・スターチスの頭の中に愛しい人と出会ったあの日々が思い出される。そして、面影に手を伸ばすのだ。

「お母さん!お庭に綺麗な花が咲いていたよ!」

窓が開き、ローズによく似た小さな女の子が入ってくる。その手には紫の花が握られていた。ローズは女の子に目線を合わせ、微笑む。

「これはスミレの花ね。あなたと同じ名前よ」