満開の桜が枝を川面に伸ばしている。

その薄いピンク色に隠れるように、ふたりは並んで立っていた。

時折花びらがふたりの周りを軽やかに舞い遊び
彼女の制服の肩に、髪に留まっている。

精一杯の想いを伝えると
彼女は驚いた顔をしてこちらを見た後、ゆっくりと目を眇めた。

「……ありがとう」

その笑顔がやけに儚げに見えた。

(桜の精、みたいだ)

気が付けばフェンスの乗せたお互いの手がわずかに触れていた。
彼女の体温と共に痺れるような甘い感覚が流れ込んでくる。

説明出来ない気持ちが沸き上がり、引き寄せられるように彼女の唇をに自分のそれを合わせた。
キスと言うには本当に拙い行為。

でも、その瞬間目の前のに流れる川のせせらぎの音も聞こえなくなった気がした。

「……」

彼女が身動ぎした気配で我に返り、慌てて離れる。
胸の鼓動が止まらない。

「次も、同じクラスになれるといいな」

焦った気持ちを悟られないよう、誤魔化すように言う。

「……うん……そうだね」

やけに間があった後、彼女は俯いて答えた。
西日を背負った雲のような桜の陰で、その表情をはっきり見る事は出来なかった。