9話「レモン&ジンジャー」



 
 
 「菊那さんが私の所に来た理由はなんですか?」


 まっすぐな視線とこの言葉を受け、菊那は驚きのあまり、持っていたフォークを落としてしまいそうになった。
 けれど、きっと表情には出ていない。そう思いつつも、菊那はどうにかぎこちない笑みを浮かべる事が出来た。


 「い、樹さんのところに来た理由なんて……散歩をしていた時にたまたま通りかかったんです。そしたら、偶然紋芽くんとぶつかって……」
 「私の屋敷は袋小路の奥にあります。通りから見れば屋敷の方は行き止まりだとすぐにわかるはずです。………それなのに、わざわざ袋小路に入った理由は何ですか?」
 「それは………」
 「………あなたも、この町に伝わる噂話を聞いて私の屋敷に興味を持った……いや、用件があった。だから訪れたのではありませんか?」
 「…………」


 菊那は一度小さく息を吐く。
 もう、ダメだなと思った。


 「…………さすが、樹さんですね。そこまでわかっていたなんて………」


 菊那は正直に認めた。
 樹が話した通り、用件があって樹の屋敷へ向かったという事を。
 バレてはいないと思っていた。紋芽とぶつかったのは偶然であったし、樹の話が出来、屋敷に入る事が出来たのも偶然だと思っていた。
 けれど、樹は全てわかっていたようだった。菊那が花屋敷の主人に会いに訪れていた事を。