4話「スプリングパル」



 菊那が自宅に帰り、樹にメールをするとすぐに返事が返ってきた。


 『ありがとうございます。作戦、よろしくお願い致します』


 という簡単なメッセージだった。
 宛名には先ほど菊那が登録した「史陀樹」と表示されている。
 今日初めてあった男性と連絡先を交換したのだ。しかも、相手は有名な大学の教授だった。大きなお屋敷に住み、立派な庭園を持ち、そして休みの日なのにスーツを着込み姿勢正しく紅茶を飲む。そんな紳士だ。しかも、モデル顔負けのかっこよさを持っている。自分とは住む場所が違う、そんな相手とこうやって連絡を取り合っている。
 出会いとは不思議なものだ。


 「……どうして花の名前が羨ましいのかな?」


 菊那の名前を聞いて、彼はそう言いながら少し遠い目をして切ない表情を見せた。短い時間の会話の中でも、彼は時折笑顔以外の表情を見せたのだ。それが、菊那にとってとても気になったのだ。
 名前に花を望むというのに、花が好きなんですね、と言うと彼自身が迷う姿も見られた。
 彼の名前は「樹」。大学で植物の事を教えているぐらいに草木が好きならば、とても誇らしい名前ではないかと思うが、それでも菊那の名前を羨ましがるのだ。

 やはり樹という男は不思議だった。


 「けど………花泥棒を見つければ、この関係もなくなるわ」